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TECH BLOG / 7月 12, 2021
Spin Digital メディアプレーヤーを使用した8K HDR 動画再生
Mauricio Alvarez-Mesa, PhD, Sergio Sanz-Rodríguez, PhD 著 — このテクニカルブログでは、8K最適化されたメディアプレーヤーにおいてどのようにハイダイナミックレンジ (HDR) に対応するのかについて論じます。8K HDR 動画再生に利用できる様々なオプションとそれらの機能、および制限についてを紹介するとともに、弊社開発のメディアプレーヤー – Spin Player – がいかにして8K HDR アプリケーションを、最新のPCシステム(汎用のCPUやGPU)とインターフェース(HDMI2.1) のもとで実現しているかを示します。
8K HDR: 解像度を超えて
8K規格の持つ意味合いは単に高解像度というだけではなく、より強い現実感・没入感を得られるように設計された規格です。一方でそれらを実現するために、8K規格は莫大なピクセル数 (FHD の16倍のピクセル数)とハイダイナミックレンジ (HDR)、広色域 (WCG)、およびハイフレームレート (HFR) を組み合わせたものとなっています。
したがって、8K メディアプレーヤーは少なくとも 8K 解像度、 50 および 60 fps、 10-bit, いくつかの HDR フォーマット と WCG フォーマット、オプションとして HFR に対応している必要があります。プロフェッショナル8Kフォーマットとディストリビューション8Kフォーマットについて下記の表1にまとめました。
フォーマット項目 | 8K プロフェッショナル フォーマット | 8K ディストリビューション フォーマット |
---|---|---|
解像度 [pixels] | 7680x4320 | 7680x4320 |
フレームレート [fps] | 50/60 | 50/60 |
HFR [fps] | 100/120 (optional) | 100/120 (optional) |
カラーサンプリング | 4:2:2, 4:4:4, RGB | 4:2:0 |
ビット深度 | 12-bit | 10-bit |
HDR 伝達関数 | PQ, HLG | PQ, HLG |
カラーガンマ | BT.2020 | BT.2020 |
動画コーデックプロファイル | HEVC Range Extensions | HEVC Main 10 |
表1 : 8K フォーマットまとめ
HDR フォーマットと 8K 動画における標準
2種の主要フォーマットがHDRに使用されています:SMPTE ST2084 スタンダード (及び BT.2100) にて定義されるPQ (Perceptual Quantizer)、そしてARIB STD-B67 スタンダード (及び BT.2100) にて定義される HLG (Hybrid Log Gamma) フォーマットです。
PQフォーマットに静的メタデータを付加した際、このフォーマットは HDR10 となります。動的メタデータに対応したPQもあり、Dolby Vision、HDR10+、SL-HDR1などが挙げられます。下記の表に PQ、HLG、HDR10 の主要特性をまとめました。
フォーマット項目 | PQ (10-bit) | HLG (10-bit) | HDR10 |
---|---|---|---|
伝達関数 | PQ (SMPTE ST2084) | HLG (ARIB STD-B67) | PQ (SMPTE ST2084) |
ビット深度 | 10-bit | 10-bit | 10-bit |
原色 | BT.2020 (BT.2100) | BT.2020 (BT.2100) | BT.2020 (BT.2100) |
動的メタデータ | none | none | - Color volume (SMPTE ST2086) - MaxFALL - MaxCLL |
動的メタデータ | none | none | none |
表2 : HDR フォーマット
8K HDR 動画再生
適切なHDR動画再生のためには、メディアプレーヤーが8K HEVC ストリームを読み込む際に以下に示す各種情報が必要とされます:
- 伝達関数: PQ, HLG
- カラリメトリ: BT.2020 (BT.2100)
- 行列要素: BT.2020 PQ, BT.2020 HLG
- カラーモデル: YCbCr, RGB
- 映像階調範囲: Full, limited
- HDR 静的メタデータ: Color volume, MaxFALL, MaxCLL
静的HDRメタデータは SEI (Supplementary Enhancement Information) としてHEVCビットストリームとともに伝送されます。伝達関数とカラリメトリ、行列要素についてはHEVC における VUI (Video Usability Information) メッセージを利用して伝送されます。
デコーダはHEVCビットストリームをフレームピクセルへと復元し、そのデコードされたフレームをメタデータ情報とともにレンダラへと伝送します。これを受けてレンダラは、最終的にAVインターフェースからディスプレイへと出力・描画されるフレームデータを生成します。PCベースのシステムではさらに、動画レンダリングエンジンとは別の映像ソースを組み合わせた映像送出となります。図1はGPUベースのレンダラを利用する一般的なメディアプレーヤーのデータフローを示しています。
図 1: GPUレンダリング使用の8K HDR メディアプレーヤーにおけるデータフローチェーン
Windows 10 PC システム上での運用として、現在のところ HDR 動画再生では HDR10 (PQ) フォーマットのみがサポートされています。したがって、HLGコンテンツの再生にはトーン (およびガンマ) マッピングを行い、SDR へと変換する必要があります。以下の表3 ではWindows10 上で Spin Player を使用した場合の HDR 対応能力を示しています。
HDR10 及び PQ に対する GPUベースのレンダリング | HLGに対する GPUベースのレンダリング |
|
---|---|---|
コンテンツの フォーマット | PQ / HDR10 BT.2020 (BT.2100) | HLG BT.2020 (BT.2100) |
デコーダ | HEVC | HEVC |
メタデータ伝送 | SEI + VUI | SEI + VUI |
レンダラ | PQ / HDR10 BT.2020 (BT.2100) | HLG-to-SDR トーンマッピング BT.2020-to-BT.709 ガンママッピング |
Windows 10 映像合成 | PQ / HDR10 BT.2020 | SDR BT.709 |
AV インターフェース | PQ / HDR10 1x HDMI 2.1 | SR/BT.709 1x HDMI 2.1 or 4x HDMI 2.0 |
表 3: Windows 10 上で Spin Player を使用する場合の PQ・ HLG HDR対応状況
下の図2 ではHDR10 (PQ) 動画でのプレーヤーデータフローチェーンを示しています。この場合、チェーン中すべての箇所が HDR10(PQ) に他おいうしているため、トーンマッピングのような変換の必要がなくなっています。
図 2: PQ フォーマット HDR での8Kメディアプレーヤー上フローチェーン
HDMI 2.1 インターフェースでの8K HDR
つい最近まで、Spin Player やその他ソフトウェアプレーヤーでの8K動画再生には4本のケーブル接続が必要とされていました。すなわち、4つのDisplayPort出力を使用し4つのHDMI 2.0 接続へと変換し8K テレビへと接続する形式です。この2×2 HDMI 2.0 接続形式初期の8K TV に多く見られた形式です。この接続形式では、GPUドライバなどの制約により8K HDR映像出力に対応できませんでした。
最新のHDMIインターフェース、HDMI 2.1 に対応した新世代GPU、および8K TV の出現に伴い、8K 動画再生はケーブル1本での簡単な接続形式に対応し、同時に 8K HDR 動画の再生を実現できるようになりました。
この、最新世代のAV インターフェースであるHDMI 2.1 は、1世代前のHDMI 2.0 で最大4Kp60 が上限であった信号上限を 4Kp120 や 8Kp60 といったより大きな解像度信号に対応しました。HDMI 2.1 はさらに、シーンベースやフレームベースでのコンテンツダイナミックレンジ適応のための静的および動的HDRメタデータ伝送にも対応しています。
HDMI 2.1 対応のデバイスとは?
NVIDIA GeForce RTX 3000 シリーズ および AMD Radeon 6000 シリーズの GPUが 8K 解像度出力を含むHDMI 2.1 出力をサポートしています。また、最新世代の8K TV は HDMI2.1 入力に対応しています。
HDMI 2.1 による 8K 動画再生の利点
HDMI 2.1 フォーマットには、前世代の HDMI 2.0 によるシステムと比較して、8K動画再生における様々な利点があります:
- より簡単な8K動画再生システム: 単に1本のケーブルで、追加のコンバーターなどを使わずにGPUと8K TV を接続することができます。接続設定についても、Nvidia Mosaic や AMD Eyefinity のような複雑なマルチモニター設定機能を使わずとも、簡単に8K 動画再生環境を構築できます。
- HDR 対応: HDMI2.1 はHDR とHDR 用各種メタデータ伝送に対応しており、8K信号とともにTVへの伝送が可能です。
- 対応 TV 種類: 市場にある多くの 8K TV が HDMI 2.1 をサポートしています。
図 3. Spin Player での 8K HDR 動画再生
8Kp60 動画再生のためのシステム構成
弊社ではこれまでに HDMI2.1 を使用した Spin Player での 8Kp60 HDR 動画再生について、動作検証を行っております。 下記の表にて、8K “ディストリビューションフォーマット” における推奨PC/ワークステーション環境について記載いたします:
CPU | Intel Core i9-10900X (10 cores), もしくは AMD Ryzen 9 3900X (12 cores) |
DRAM | Core i9: 16 GB (4x 4 GB, DDR4-3200) Ryzen: 16 GB (2x 8 GB, DDR4-3200) |
GPU | NVIDIA RTX 3060, もしくは AMD Radeon RX 6800 |
OS | Windows 10 |
プレーヤー | Spin Player |
コーデック | HEVC Main 10 |
最大 ビットレート | 120 Mbit/s |
表 4: 8K ディストリビューションフォーマット向けシステム構成
弊社ではHDMI 2.1 による8K HDR 検証について、 Sony KD-75ZH8 8K TV との組み合わせで検証を行いました。8K動画素材には静的な HDR10 メタデータを含むPQフォーマットとしてエンコードされたHEVC動画を使用、この動画素材をSpin Player 上にて下図に示すように、HDR10(PQ) としてのデコードとレンダリングを行いました。 また、Windows10 はHDR10 出力用に設定を行い、GPU出力についても 8Kp60, 4:2:0 10bit フォーマット出力を行えるように設定しました。
図 4: 8K PQコンテンツを8K TV 出力した際の Spin Player スクリーンショット
推奨環境についての詳細につきましては Spin Player ページもご参照ください。
まとめ
最適化されたソフトウェアメディアプレーヤーを使用することで 8K HDR 動画再生 を行うことが可能です。デスクトップCPU上での HDR メタデータを含む HEVC デコードが可能ですし、HDR に対応したOSと新世代GPU を組み合わせて使用することで HDR映像出力を行うことも可能です。また、最新のGPUは HDMI 2.1 インターフェースにも対応しており、これによりシングルケーブルでの8Kp60 HDR コンテンツの送出が可能となります。これらを組み合わせることで end-to-end HDR 体験を構築することが可能となりました。現時点ではWindows 10 ベースのシステムではHDR10 フォーマットにのみ対応しています。HLGのようなそれ以外のHDRフォーマットについてはトーンおよびガンママッピングの必要があります。PC システム上でのHDR 対応と、一般的なHDRフォーマット についてはそれぞれ未だ発展途上な状態です。弊社では将来的に、より多様なHDRフォーマット、Dolby Vision やHDR10+、あるいはそれ以外の動的HDR フォーマットについての調査と対応を進める予定です。
注釈と免責事項
本ページにおける推奨情報については弊社にて実施した内部テストの結果に基づいております。現在(2021年7月)時点における弊社の確認状況としての参考情報であり、いかなる保証を意味するものではありません。より具体的な要求事項がございましたら、お問い合わせください。
商標
“Spin Player” は、Spin Digital Video Technologies GmbHの商標です。
その他の商標につきましては、それぞれ所有者の資産であり、ここでは説明のために使用されています。